掛物

 掛物は大まかに分けると、書と画になりますが、いずれもよく乾かして保管することが大切です。墨蹟の場合には、新しい物は表具の糊が乾いていないときがあります。そんな際には、二、三日かけて乾かさないといけません。最近の糊はめったにシミが出てくることはないのですが、なるべく乾かすこと、それも日にあてて乾かす
のでなく、陰干しで乾かすことが重要です。ただ、注意しないといけないのは、風です。軸だけにかかわらず、茶道具というものは、おおむね直接風にあてるのはさけるべきなのです。特に竹の花入などは要注意です。

 また、いわゆる「虫喰」。これにも注意しなければなりません。古い社寺の障子紙などには、糊を食べにくる虫がいます。それと同じものが、軸には大敵なのです。昔の人は虫を防ぐために桐屑や唐辛子を箱に入れたりしました。現在は防虫剤や防虫香などを使いますが、長い間置いておくと効果がなくなってきますし、今度は防虫剤
そのものが湿気を呼んでしまいます。虫喰を防ぐための防虫剤ですが、それにも限度があるということです。やはり、虫干しをしなければ、いくら良い防虫剤を使用したとしてもシミは出てきます。

 昔は蔵の中に軸箱を保管する棚を設けたものです。目の高さより高い、棚というより竿を渡したようなものですが、蔵の中に入ると見上げるようになりました。そのため、箱の底に書付が施される場合も多くあり、直接床に置かず高い所に置くことで、軸箱そのものが湿気ないようにしていたわけです。この保管の仕方は、現在も参
考になります。

 風炉先なども、湿気が大敵です。横にはせずに、縦にして置きます。また、新しいものは間に紙を挟み湿気を防ぎますが、湿気を呼ばないためには、実際に使用するのが良い方法です。

 軸、風炉先を入れる箱は、桐材でできたものが良いでしょう。桐はゴマノハグサ科の落葉高木で、くるいが少なく、吸湿性も少なく箱には適した材質ですが、柔らかいので強度に少々不安があるのと、高価なものが難点といえば難点です。

 冷暖房も軸の大敵です。気をつけましょう。昔の日本建築と違い近頃の建築物は気密性が高く冷暖房が効きすぎるほどですが、軸のためには自然の温度が一番良いのです。

 ところで、掛物を巻くときにはただ巻けば良いというわけではなく、強く巻きすぎないよう余裕を持たせた巻き方を心がけます。特に新しい軸は、クセが付きやすいので注意が必要です。箱を誂えるときには、その辺りのことにも気をつけないと、軸が入らなくなってしまいます。また、何日か茶会が続くようなときには、掛けっぱ
なしにせず、一日の席が終わったらはずして巻いておくことは当然のことです。

 今まで申し上げたのは茶掛に関してですが、絵の場合には「太巻」という木の軸をかまして巻きます。金箔などがある場合の絵を護るわけです。軸にはあまり見られませんが、特別の懐紙などにはこのような太巻が見られます。

 色紙、短冊は折れるのを防ぐのと同時に、これも湿気にだけは十分気をつけます。扇面の場合は風炉先のように紙を挟むわけにはいかず、そのまま乾燥させるしか方法がありませんが、乾燥させすぎると、骨が竹でできているのでくるってきます。若い、寝かせていない竹ほどその傾向があります。

 いずれにせよ、掛物をはじめ、紙でできた茶道具には湿気が大敵です。これらの諸注意を心にとめ、大切に保管する必要があります。




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