懐石道具・菓子器

 菓子器を使用した後には、菓子の粉が落ちたりすることがあります。そんなときには、ぬるま湯で軽く湿らせた布で拭き取るようにし、その後はきれいに乾かすようにします。茶碗などのように水分に絶えずふれるわけではありませんので、必要以上に長く干す必要はないでしょう。

 菓子には非常に多くの種類があります。その中でも、干菓子の中の有平糖などは、時季によっては溶けてしまい、古い菓子器などに引っ付いたとき無理に剥がすと装飾が傷むことがあります。水屋お手伝いの心得になりますが、そういう心配があるということを忘れずに、注意を払う必要があるでしょう。また、堆朱のもので繊細な彫りが入ったものなどは、細かな粉がすきまに入り込んだりします。そんなときは、小さな羽箒などで完全に粉を取り除くようにします。堆朱のものは、特に湯拭きすることは禁物ですので、乾いた布を使用する点にも注意が必要です。

 懐石道具の中で、特に問題となるのは向付です。向付には、たいていお造り類や酢の物などを使います。酸気を含むものが多いので、酸に負けてしまう焼物があります。交趾などは特に酸気に弱く、茶事のときには料理方の人と、その辺りのことを話し合う必要があるでしょう。その他にも醤油に弱いものなどいろんな場合があります。向付に限らず、鉢にも同じことがいえます。湯や茶を入れるものとは違い、様々な調味料や素材を使う料理の場合には、いろいろ計算する必要が生じてくるのです。

 特に新しい向付や鉢を使用するときには、一度染み込んで色が付いてしまえば取れにくいものです。ただ単に色の取り合わせが良いからといって料理を盛り付けるものではなく、この鉢にこの品目が合っているかどうかという点も、席主と料理方との折り合いの話を通じて決定していくことが必要なのです。

 煮物椀、汁椀は大変熱いものを入れます。これらの場合は、何回も使用していくあいだに、漆の色が変わっていくことは避けられないものです。熱いものをお出しするのはお茶人の心得でもあり、色が焼けてくるのは予防のしようがないのですが、渋みが増すと思えば良いのではないでしょうか。

 また懐石道具のいずれも、洗う必要のあるものは洗い、よく干してから仕舞うようにしますが、洗剤はあまり強くないものを使うようにしましょう。いずれにせよ、個々の器により性質が違いますので、保存する上では料理方の人に相談するのが一番でしょう。

 お茶道具というものは大切に扱うべきもので、歴史の上でも長く細心の注意のもとに守られてきたものです。茶道具の歴史は、日本の文化の歴史とも言えると思います。心から大切に扱い、その歴史がいつまでも続いていくように、代々続いていくように、そういった心がけが必要なのではないでしょうか。

 使わないなら使わないなりに、蔵から出して陰干ししてやる、出しっぱなしにしたまま何年も置いておかない、そういった努力を絶えず行い、道具の保存のために尽力していく、そうしなければ古い年代を経てきたものに対して失礼です。今までお茶人達に大事にされ、脈々と続いてきたお道具は、これからも日本の遺産として残されていくのです。

 たまたま我々が大事にさせてもらったという過程で、我々の後の人が大事にしていけるように、その流れのなかで茶道具を大切にしてきたのだということを今所持している者が見せていくこと、そういった努力も必要になると思います。とにかく、我々は茶道具の歴史に参加している、そういう意識を持ち続けてほしいと思います。




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