蓋置や建水は、道具の取り合わせの上ではどちらかといえば脇役のような印象を受けますが、茶道具は一点一点茶席の中に入れば重要な役割を待ちます。棗や茶碗に目が行くのは仕方ありませんが、蓋置や建水はなくても良いものではなく、絶対に必要なものです。濃茶席の場合は曲の新しいものを使用して新鮮さを強調したり、薄茶席の場合でも十分な役割を持って茶席に出されているものです。決して疎かに扱わないようにしましょう。
さて、まずは蓋置についてですが、これは材質の違いによって手入れの仕方が違ってきます。金属のもの、陶磁のもの、木や竹のものなどに分類されますが、蓋置だからこうしなければならないという注意点は特にはありません。竹のものは釜蓋の下に置いて濡れたときなど、風にあてないよう、無風状態で陰干しすること、冷暖房の効いた部屋に長く置かないことなど、花入のときに述べた注意点と同じことに気を付ければ良く、焼物の場合も、今まで述べたように柔らかい、薄手の布で汚れを拭き取る、などのことに気を付ければ良いでしょう。ただし、蓋置は非常に多くの種類があり、蟹や人形など、変化に富んだ繊細な形が多いので、拭いたり洗ったりするときには十分に気を遣う必要があります。また、竹の蓋置には菊置上や蒔絵、歴代の宗匠方の花押がある場合や、自らの手造りに落款や漆書が施されているものが多くありますので、それぞれについて相応の扱いをするように十分に注意しましょう。汚れが特にひどいということはないと思いますが、もし汚れが目に付くようでしたら柔らかい紙や布で軽く押えるようにして汚れを拭き取ると良いでしょう。また置上が施されたものは、なるべく直接装飾部分に水がかかることは避けるように注意する必要があります。
一方、建水については、汚いものを捨てるのではないということを意識することです。席中で茶碗をすすいだ水を入れただけのことであり、汚れはひどくないと思います。きれいなものをきれいな状態に保つ心がけを忘れないようにすべきです。ややもすると疎かに扱ってしまうことが多いので、その点には十分に注意してください。建水の材質は金属・陶磁・木竹工品などに分けられますが、陶磁器のものは、基本的には水指や茶碗の項で述べたことを参考にしていただきたいと思います。ただし、建水は水指や茶碗と違って、使用する前に水を含ませないこともあります(ただし、曲のものは水に通すべきで、備前焼のものなどは景色が良くなるように、あえて使用前に水につけることがあります)。また唐銅など金属のものは、脂や手垢が付きやすく、使用後そのままお湯拭きをせずに保管すると白い濁りが出ますので、その点には注意が必要となります。曲物などの木工品には蓋置と同じく蒔絵や置上が施してあったり、塗りが施してあったりしますので、やはり装飾部分に直接水をかけない、などの点には注意した方が良いでしょう。
冒頭にふれたように、茶道具に疎かにして良いものは一つもありません。それぞれが一つの役割を持って出来てきたものだからです。蓋置も建水も、手入れするときにはなるべく丁寧に扱いましょう。また、繰り返しになりますが、蓋置には多くの種類があり、それぞれに技巧が凝らされた繊細なものが多く、気を付けていないと、例えば蟹の爪が出ていたり、その他七種の蓋置で言えば三つ人形・五徳・火舎など複雑な形をしたものが多いので、洗ったり拭いたりするときには傷付けないように、また蓋置、建水にかかわらず、蒔絵や置上が施されているものは、装飾部分を無造作にこすったりしないよう心がけるように、この二種に関しては以上のような点に注意していただきたいと思います。
建水・蓋置