香合

 香合は水気につかるわけではないので、その点についてはかなり楽な面があります。とはいえ、香合は炭道具の主役であり、茶の湯で使われるお道具の中でも貴重品と言えるものです。取り扱いには十分注意し、細心の注意を払うようにしましょう。

 香合に入れる香には香木と練香があります。香木の原産地はアジアの熱帯地方で、練香は数種の香料を蜜で練り合わせたものです。風炉の時季には香木、炉の時季には練香を用いることになっています。

 一般的には、風炉の時季には漆器・木・竹などの素材、炉の時季には陶磁器の香合を用いることになっています。また、風炉にも炉にも用いることができる、蛤・月日貝などの貝類と金・銀・砂張などの金属類からなる両用香合を炉の時季に用いる場合には両端を切った椿の葉を敷き、その上に練香をのせることになっています。

 風炉用の香合を炉の時季に用いるときも、同様に椿の葉を敷くのですが、練香を椿の葉にのせることによって、香合そのものに施されている金箔や絵などの装飾の保護にもなるので良い方法であると思います。

 香合を保管するときには、まず拭き清めるようにしなければなりません。汚れは特にひどくないとは思いますが、念のために、柔らかい紙で押さえぎみに、拭くのではなく、押さえて汚れを取るようにします。花入や水指などと違い、湿気を帯びるということもないので干す必要はありません。香合は箱そのものもしっかりしている場合が多いので、そうした点でも安心できます。ただし、青貝など、貝による細工が施されているものは十分な注意が必要です。こすったりすると、貝をはがしてしまいます。やはり、拭き取るのではなく、柔らかく押さえて汚れを取るようにしましょう。また、蒔絵、青貝、堆朱のものなどは、乾燥したところに置くように気をつけましょう。

 古くから伝来する錫縁香合の場合には、蒔絵が施された本体に接合してある縁の部分がはずれるものがあります。漆でつけてあるのですが別の素材同士ですから、どうしてもそういうことが起こるのです。

 漆のものに金属がかぶさっているので、長い年月の間に錫が次第に腐食してきますし、漆そのものも中身が痩せてくるとヒビが入ることがあります。最近では錫縁のものは少なくなり、ほとんど銀の縁になってきているようです。

 その他、保管に関して気をつけることとしては、急に外気にあてないこと、青貝などが埋め込まれているものは、冷暖房にも気をつけること、などがあります。

 昔の茶室というものは良く考えられていて、お道具を使用するときにそういったことは何も心配いらなかったのですが、どうしても現代の茶室はビルの中に建設されることが多くなっています。昔の茶室は日本の風土に合ったようにできており、茶道具もその環境の中で使われることを前提にして製作されていたのです。

 これらの茶道具が、日本の風土と違う環境に長い間おかれると、一遍に悪影響を受けてしまう場合もあります。

 特に漆のもの、木のものなどは変色してしまいます。外国に保管されていたお道具が、日本に里帰りすることもあるのですが、そんな場合も本来の色が変わってしまっていることがあるのです。

 他にも細かな注意点はありますが、香合は先程も申しましたように水分には触れませんので、その点については安心といえるでしょう。金属でできたものも、特に気を使う必要はないでしょう。




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