釜は茶事、茶会の中でも中心となる、茶の湯の象徴とも言える茶道具です。鉄などの金属製ですので、サビや臭気が問題となり、取り扱いには十分な注意が必要となります。

 最近の釜は、サビがこないように中を漆で薄く塗ってある場合がありますが、古い釜はそうはいかず、よほどうまく乾かさないとサビが出てしまいます。釜をあげたあとは、湯を捨て、灰の余熱で柔らかく乾かす必要があります。

 ここで重要なのは、あくまで灰の余熱で柔らかく、ということです。強い火ですと釜を傷めたり、釜の底の「鳴」が取れたりと、良い結果にはなりません。鳴は、「松風の音」を出すために釜の底に付いているもので、通常の使用でも破損しやすいほどモロイものです。破損してしまったときは、専門家にみてもらう必要があります。

 釜を保管するときは、まずぬるま湯で洗い、柔らかい布で地肌をやさしくたたき汚れを取るようにします。釜の底には煙があたっていますので、「釜洗い」(切藁)のような地肌を傷つけにくい素材のもので汚れを取ります。汚れが取れたら、風炉や炉中の炭を、わずかに余熱が残る分量だけ残して取り除き、先ほどふれましたように余熱でゆっくりと乾かし、乾きましたらすぐに取り上げます。通常は他の茶道具を片付ける一、二時間の間に乾きますが、そのまま箱に入れると熱で箱がくるってきますので、熱が気にならないところで冷たくなるまで十分に冷ましてから箱に入れるようにします。

 箱に入れるときは、他の茶道具と違い、布切や紙でなく、縄で編んだ通気性の良い網などで包みます。湿気でサビが出やすくなるからです。箱の底に丸い藁の底敷を入れその上に釜を置き、四隅の隙間に藁を筒状にして和紙で巻いたものなどの緩衝材を詰めて、ショックをやわらげるようにします。釜は鉄なので乱暴に扱ってもだいじょうぶと思いがちですが、実際は全く逆で、強いショックを受けると一遍に底が抜けたりします。箱があまり窮屈ですと、ショックが直接伝わりよくありませんので、ある程度余裕のあるサイズの箱が理想的といえるでしょう。

 長い期間、蔵に保管していた釜を使用すると、沸かしたお湯に鉄くさい匂いや蔵の湿気た匂いがついてしまうものです。これは新しい釜を初めて使うときも同様のことがいえます。いずれにせよ、いきなりお茶会に使うのは避け、前もってお湯を沸かす必要があります。何度かお湯を替えているうちに匂いは抜けるはずですが、匂いがきついときにはお酒(日本酒)を少量落としてやるという方法もあります。これでほとんど匂いは抜けるはずですが、あくまでこれは応急処置で、何回もお湯を沸かし、お湯が匂いを吸ったら替えてやるというのが本来の姿ということを心にとめておいて下さい。

 釜は素材上、どうしてもサビやすいものです。扱うときには直接手でふれず、釜釻か布で持つようにします。手の汗はサビの原因になり、その他にも女性の化粧品が含む塩分、水道水に含まれる薬品など、釜をサビさせる原因はたくさんあります。また古い釜の場合、継ぎ目の地紋の下の辺がどうしてもサビやすくなっているものです。万一サビがひどくなったときは、専門家の方に修理してもらいましょう。素人が手をだすと破損の原因になりますので、注意が必要です。

 釜を扱う上で一番重要なのは、実際に使用してやるということです。使っている間に、釜はどんどん地肌が良くなってくるものなのです。良い釜は、早期に火にかけたときと、夕刻の地肌が全く違ってくるほどです。使っているうちに、地肌が馴染んでくるからです。逆に、いくら良い釜でも使わずにいれば、どんどん悪い状態になってしまいかねません。最低でも年に一度は蔵から出して火にかけるように努めましょう。




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