薄茶器

 薄茶器や替茶器は室町時代の後半以降の利休の時代に重要視され、以来利休形を基本として、香道具の中から少し深い蓋をもつものを応用したりしながら、茶人たちの茶に対する美意識や境地を反映させて様々な形体と材質の物になっていきました。その時代時代によって流行もあったようで、歴代の宗匠方の棗を見てみると、その時代に即応した蒔絵が施してあるものです。豪華な印象を受ける蒔絵が施されたものは、だいたい玄々斎の頃からが多いようです。

 薄茶器の扱い方ですが、これは蒔絵や花押がある繊細なものや塗物が多く、傷を付けないような配慮が必要で、特に花押は漆の上に漆で書いてありますので、花押に直接ふれないように十分注意しましょう。紙よりは布の方が傷みが少ないようですが、まずは柔らかい紙でお茶を拭きとり、次に柔らかい布で手の脂などの汚れをとるようにするとよいでしょう。

 この場合、基本的には一切水気はいりませんが、茶杓と同様に薄茶器も拝見に出されることが多く、汚れが余程ひどいときにはぬるま湯につけた布で軽く拭きとるようにします。ただし、木地や竹などの材質のものは、水分がふれると跡が残りますので、避けた方が無難です。

 茶入の場合は口が狭くなっているものが多く内側を拭くときには細心の注意が必要ですが、棗の場合は広がっている場合が多く(例外はあります)、その点では掃除しやすくなっています。

 いずれにせよ、一遍に拭きとるとどうしても傷が付きますので、時間をかけて、柔らかく撫でるように拭きとりましょう。

 棗には様々な材質のものがありますが、最近のものはほとんど漆器になっています。ワシントン条約以降、現在は象牙の棗などは製作することができなくなっています。

 竹の場合には少し漆が掛かったもの、全体に漆が掛かったもの、全く掛かっていない竹そのものなどがありますが、竹そのものの場合は先ほどふれたように木地と同じく水気は避けます。

 折撓の一閑張の場合は、そのざんぐりとした風合いには独特のものがあり、折り目折り目のところにお茶がたまることが多くなります。そんなときには傷が付きにくい程度の丸い先を持つ、細い棒の先に布を巻いて、ゆっくりと取り除くようにすれば良いでしょう。また、使用前に蔵から出してすぐの棗には、蔵染みと呼ぶ一種のカビが付いていることがあり、特に一閑張や漆器に多く見られますが、この場合もなるべくきれいな状態にするようにします。

 漆器類や蒔絵が施されたものは、あまり湿気が少なすぎると、一遍に悪い状態になってしまいます。海外に渡ったものはすぐ影響を受けることが多く、日本にある場合でも、年数がたつと割れてきたりします。干菓子盆で螺鈿が施されたものなど、蒔絵の部分が年数のたつうちに盛り上がってしまうことがあります。

 材質によってはどんなに気を付けていても、変形することを避けられない場合もあります。漆器でも変形しているものがありますが、竹でできたものは蓋の合口が合いにくくなったり、特に変形してしまうことが多いのです。また、変形しやすい材質として、松があげられます。どうしても、漆を塗る前の木地そのものが変形しやすく、これはある程度年数を経た古いものほどその傾向が見られます。一閑張のものも、変形してしまうことが多いといえるでしょう。

 乾燥することは棗には大敵ですが、逆に湿気があまりに多いことも、棗に悪影響を及ぼします。湿気を呼ばずに保管するためには、古来より桐の箱が使用されてきました。桐は虫も付きにくく、湿度の調整をも自身で行うという、箱に適した特性を持った優れた素材なのです。




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