茶杓

 真行草に分けられる茶杓は、竹のものがほとんどです。その他の材質としては桜の木や松の木、また象牙や塗りのものもあり、象牙や塗りは真、木地は草として扱われます。陶製のものは数がごく少なく、銀や金製のものは昔の大名が使用していたもので、通常使用することはあまりありません。

 現在では、茶杓に共筒はつきものですが、当初はそうではありませんでした。茶杓を削って人に贈るときに、きっちりと箱に入れる必要が生じ、贈筒として発展してきたものと考えられます。自ら削った茶杓を進物にする場合、杓そのものだけでは簡単すぎ、また保存のためにも都合がよかったので筒を使用するようになり、それにともない共箱も生まれてきたわけです。

 共筒共箱の茶杓が使用されだしたのは、常叟・仙叟あたりの時代からです。一燈の頃になりますと、さらに茶杓と共筒と共箱、三つ揃ったものが多くなってきますが、利休の頃には茶杓のみのことが多かったようです。紹鴎などの場合も三つ揃っているものはほとんど見受けられません。

 茶杓は茶道具の中でも独特の位置にあるといえます。宗匠方の手作りが多く大切にされ、また小さく贈りやすいものなので曰く因縁のあるものが多くなり、様々なドラマが生まれてきやすかったのです。誰かが誰かに会ったとき記念に作ってあげたり、宗匠方がどこかに行かれたときに記念にそこの竹をもって作ったりと、茶道具の中でもひときわ個性が出やすいものなのです。宗匠方や数寄者の性格が、その削り方一つにあらわれますが、豪胆な人もあれば柔軟な人もあり、その作者の気質というものが茶杓を通して見てとれるのです。

 茶杓の銘についてはその多くは筒書されていますが、古いものの中には茶杓の裏に直接書かれているもの、作者により直接彫り込まれたものなどがあります。そういったものは特に扱う上で注意が必要です。いずれにしろ茶杓は華奢で繊細なので、荒っぽく扱わないように注意しましょう。

 保存する上では特別に注意すべきことはありませんが、新しいものは竹の花入と同じく虫が付かないように気をつけます(古いものはその必要はあまりありません)。ただ、一度虫が喰ったものを途中で止めることはできず、それを予防するといっても、対処するのは難しいというのが実際のところです。

 茶杓を筒に入れるときには、前もって絹で作った薄い袋に入れることがあります。筒がなければ布で何重にも巻いて保存すべきですが、細い筒の中に入れるので、あまり厳重に包み込む必要はありません。筒があるのにわざわざ袋に入れるというのは、茶杓の保護のため念を入れる意味で行っているものです。

 茶杓と筒と箱は、常に同一人物の作によるものとは限りません。古い茶杓を大切に扱うために、後の時代にその所有者が筒を作り、箱を作ることもあり、替筒が作られたものもあります。それだけ大事に保存されてきたわけです。箱の中には綿を詰めることが多いのですが、これは、筒が動いて傷むのを防ぐためです。

 茶杓は点前で拝見に出されることがよくありますが、この場合に使用される道具として、手のひらに乗る小さな棚のようなものがあります。大寄せ茶会の拝見時に使用されますが、大寄せの茶会では多数の人が筒に直接さわることになりますので、それを防ぎ筒を汚さないように、また透しなどで全て見えるように考えらえらたものです。それは古い筒の拝見時に使用するため、明治時代あたりの茶人達が考案したものです。通常の茶事のときには使われず、大寄せの茶会などでだけ使用されます。このような道具が考えられるほど、茶杓に対する関心は大きかったといえます。




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