茶碗を使用するときには、水指などと同様に、事前に水分を含ませる必要があります。新しいものは特に注意が必要で、箱から出してすぐにお湯を入れ茶を点てることは避けなければなりません。水を含まない状態のままだと、汚れがあると染み込んでしまいます。
初めて使うものや比較的新しいものは、一時間ほどぬるま湯につけるようにしますが、熱湯だとヒビが入ることがありますので気をつけましょう。自分の手がつけられる程度の熱さのお湯に、丸ごとどっぷりとつけてしまいます。新しいものは特にそうしますが、使いこんでいるものでも、多少は、五分から十分ほどは水に慣らすと良いでしょう。ただし、これらは焼きが甘いものに関して言えることで、磁器のものについてはあまり必要はありません。
茶碗を拭くときには、布の厚さに注意しなければなりません。柔らかくて厚いタオルなどは水分を吸収するのには好都合ですが、力の入れ具合いを誤り茶碗を割ってしまうことがあります。
やはり、茶巾などの薄い布で拭くのが良いでしょう。また、蔵から出した茶碗には、カビが付いていることがあります。これらは大抵の場合、ぬるま湯につけて拭けば取れるものです。力を入れずとも軽く拭けば良く、茶碗には上釉がかけてあるので、意外に取れやすいものです。
汚れやカビは拭き取りますが、年月を重ねた古い茶碗に、年代に添って付いてきた「茶染み」は取る必要はありません。茶染みは、長い間使いこまれるうちにできた、茶碗の歴史ともいえるもので、むしろお茶人に喜ばれてきたものだからです。また、古い茶碗の中には割れたものを漆でとめていたり、傷が付いているものがありますが、これらは十月頃の名残りの茶会で好んで使用されることがあります。天目茶碗には覆輪という銀の縁どりがなされているものがありますが、これも漆でとめてあり、年月と共に痩せていることがあります。いずれの場合も、強くこするように拭き取ることは絶対にやめましょう。お茶会の最中でも、お茶が取れる程度に洗い、軽く拭けばよいのです。
使用した茶碗を仕舞うときには、使用する前の心境とは正反対に、茶碗に含ませた水気を取り去らなければなりません。人の出入りのない安全な場所で、丁寧に陰干しします。乾いたかどうかは適宜見ていくしかありませんが、楽焼などは時間がかかり、高麗物はある程度、青磁や磁器のものはすぐに乾くものです。ただし、季節によって、また天気の良し悪しによって必要な時間は変わってきます。夏はあまり干さずとも良く、冬場は少し長めに干すことになります。また、茶碗だけを干し、仕覆や箱が湿っていては意味がありません。茶碗のように何日間にも亘って干す必要はありませんが、茶碗を仕舞う前の小一時間ほどはいずれも空気に当ててやるようにしましょう。箱を扱うときには、箱書を傷付けないという点にも注意しましょう。
茶碗は非常に破損しやすい器物なので、蔵の中ではなるべく安全な所に置かなければいけません。また、頻繁に持ち運びをするものなので、その点に気をつけて、不安定な持ち方は避けるようにしましょう。直に口をつける物なので、衛生的にも気を遣う必要があります。口紅など付けたままにしないよう注意しましょう。
ただ、お茶会に臨む上での心構えの一つとして、口紅をつけたままでお茶を飲むものではありません。口紅をつけたままというのは、相手に大変失礼なことと言えます。
保管する際には、箱の中には特に何も入れる必要はありません。乾燥剤代わりのカンナクズなどはかまいませんが、防腐剤などは入れない方が良いでしょう。茶碗へ臭いが移ることがあります。茶碗は人様の口に直にふれるということを、絶えず意識するようにしましょう。
茶碗